「うちは武士の家系だったらしい」という話を、家族や親戚から聞いたことがある方もいるかもしれません。
では、本当に自分の先祖が武士だったのかを確かめるには、どんな方法があるのでしょうか。
まず注目すべきは、江戸時代末期から明治初期にかけて各藩で作成された藩士名簿です。
これらは「分限帳(ぶげんちょう)」と呼ばれることが多く、藩士の氏名や役職、石高(知行)などが記載されています。
とくに明治19年式の除籍に記載されている先祖の名前を探すなら、幕末から明治初期の分限帳を見るのが有効です。
ただし、分限帳には注意点があります。
上級や中級の藩士は掲載されていますが、役職についていない下級武士や無役の者は省略されていることも多く、分限帳だけですべての藩士を把握することはできません。
分限帳を探す際には、ご先祖が仕えていた藩が置かれていた地域の市町村史や都道府県史を調べてみてください。
資料編には活字化された分限帳が掲載されていることがよくあります。
また、郷土博物館や公文書館にも原本や写本が保管されている場合があるため、そちらに問い合わせてみるのもよいでしょう。
分限帳を見ても、除籍に記載されている名前が見当たらないことがあります。
これには、「通称」と「実名(諱)」の使い分けが影響しています。
江戸時代の武士は、日常では通称を使い、正式な書類や墓碑・系図などには実名を用いる習慣がありました。
明治5(1872)年に壬申戸籍が作られた際、武士たちはこの2つの名前のうち1つだけを戸籍に登録しました。
西郷隆盛は通称の「吉之助」を廃名にして「隆盛(本来は隆永)」を登録し、大久保利通は「一蔵」を廃名にして「利通」を戸籍に記載しています。
逆に、板垣退助のように通称を戸籍に登録し、実名を廃名にするケースもありました。
分限帳には通称しか記載されていないことが多く、明治の戸籍に登録された実名と一致しないために、名前が見つけられないというケースが多発しています。
このような場合は、明治期以降に作られた士族名簿など、実名ベースで記録された資料を探すと、先祖の記録にたどり着ける可能性が高くなります。
武士だったかどうかを確認するには、複数の記録を組み合わせて照合することが大切です。
通称と実名の存在、名簿の性質、そして時代背景をふまえながら、慎重に読み解いていくことが、正確な家系調査につながります。
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