私たちが日常的に使っている「苗字(名字)」ですが、実はその多くが明治時代に生まれたことをご存知でしょうか?
江戸時代(徳川幕府)の約300年間、一般庶民──百姓や町人たち──には、苗字を名乗ることが原則として禁じられていました。
・庶民には苗字を名乗る権利がなかった
江戸時代、苗字は武士や公家など、特別な身分に限られたものでした。
ごく一部、功績や許可を得た者だけが「苗字帯刀御免」として苗字を使うことができましたが、それは極めて限られた例です。
一般庶民は、公に苗字を使うことができなかったため、家では通称(たとえば「○○屋」「○○左衛門」など)を親から子へと受け継ぎ、かろうじて家の名残をつないでいました。
明治の戸籍制度で苗字が必要に
しかし、明治維新後、近代国家としての整備が進む中で、政府は国民全員に苗字を名乗ることを義務づけました。
ところが、長年苗字を持たなかった庶民にとって、急に苗字が必要になったのですから戸惑います。
古い苗字を思い出せない、あるいは元々知らなかった人々は、自ら苗字を“創作”するしかありませんでした。
中には、地元の庄屋や寺子屋の師匠、役場の人に頼んでつけてもらったという例も多くあったといいます。
とはいえ、田舎や旧幕時代においては、建前上苗字を使えなかったものの、内々で使い続けていた地域や家も多くありました。
特に農村では、「一家同姓」や家格を重んじる風習が残っていたため、明治になってからも、かつての苗字を思い出して名乗った人が多かったのです。
商人・町人たちは苗字を失いやすかった
一方、都市に暮らす商人や町人たちは、苗字よりも屋号(「○○屋」など)を重視し、移住者も多かったため、「一家の同姓」や「郷土とのつながり」が希薄でした。
そのため、明治の初めに完全に新しい苗字を創作した人が多かったのです。
しかし、商人は比較的裕福で、記録を残す手段や余裕があったため、過去の通称や家名が書き残されていた例もあります。
忘れられた苗字をどう探すか?
では、自分の家が明治時代に創作した苗字であった場合、どうすれば本来のルーツを探せるのでしょうか?
一つの手段は、「同じ姓を持つ近隣の家系」や「同じ地名・通称を持つ家」を調べることです。
地縁・血縁をたどることで、自家の元の苗字や同族の存在が見えてくることがあります。
また家紋があれば、同じ地域で同じ家紋があれば間違いなく同族の可能性が高まります。
あなたの苗字には、どんな由来があるのでしょうか? ルーツをたどる旅は、きっとあなた自身の物語を深めてくれるはずです。
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