「過去帳」からたどるご先祖の記録──古文書よりも身近な家系調査の第一歩

家系を深くたどるうえで欠かせない資料のひとつが「過去帳（かこちょう）」です。
特に高祖父以前の世代、さらにそれ以前の先祖を探るとなると、公的な記録では限界があり、寺院や家に残る過去帳の力を借りる必要が出てきます。
今回は、過去帳の由来や役割、活用の注意点についてわかりやすく解説します。

■過去帳とは？──命日を記した“先祖の記録帳”
過去帳とは、故人の命日（遺居日）や戒名、没年月日などを記録した帳面のこと。
もともとは仏教的な目的というより、先祖の命日に供養をするために「いつ亡くなったか」を記録しておくという、素朴な信仰心に由来します。
平安時代にはすでに「過去帳」と「現在帳（誕生日などを記す帳）」の記録が行われていたとも言われており、長い歴史を持つ伝統的な記録文化です。

■家の過去帳と寺の過去帳
過去帳には大きく分けて2種類あります。

①自宅に伝わる家の過去帳
→ その家に限った記録。家系図と併用することで、命日や戒名の照合が可能です。

②寺院に保管されている過去帳
→ 同じ檀家（信徒）全体の記録をまとめたもの。個人では見られない場合もありますが、申し出によって確認できることもあります。

ただし、過去帳は代替わりや写し替えの際に記録が省略されることも多く、古い記録ほど残っていないのが実情です。

■なぜ古い過去帳は残りにくいのか？
理由はいくつかあります。

・新しい帳簿に転記される際、重要人物のみ記録され、他は省かれる
・古い帳面が傷んで破棄された
・墓地の移転や家の衰退で記録が途絶えた
・寺自体が戦乱や火災などで記録を失った

とくに江戸時代以前の社会は不安定で、戦国時代や宗教の混乱により、寺院の宗派変更や創建し直しも頻発していました。
そのため、戦前の過去帳が現存しているお寺は極めてまれで、明治以降の記録が中心となることが多いのです。

■過去帳と「宗門改帳」の関係
江戸時代、キリスト教（キリシタン）を禁じるために、幕府はすべての民に「仏教徒である証明」を求めました。
このときに用いられたのが「宗門改帳（しゅうもんあらためちょう）」と呼ばれる戸籍のような帳簿で、人々はどの宗派に属しているか、どこの寺の檀家かを明示させられました。
この制度によって、寺と個人・家族の関係は非常に密接になり、戸籍のように機能する寺の記録が整備されるようになったのです。

■過去帳から何がわかるのか？
過去帳には、以下のような情報が記録されています。

・戒名（法名）
・俗名
・没年月日
・没年齢

これらを手がかりに、家系図の記録と照合することで、系譜の正確性を補強することが可能になります。
また、兄弟姉妹の存在や婚姻関係など、戸籍に残っていない情報が得られる場合もあります。

■過去帳を調べる際の心構え
・家の仏壇に過去帳が残っていないか確認する
・菩提寺に丁寧に相談し、閲覧や写しをお願いする（断られる場合もあります）
・記録が不完全であっても、手がかりとして活用する
・伝承や伝説と混同せず、史料としての限界を意識する

■まとめ：過去帳は家系調査の“静かな証人”
過去帳は、決して派手な資料ではありません。
しかし、何世代にもわたって書き継がれ、静かに家族を見守ってきたその存在は、家系調査において非常に価値のある情報源です。

遠いご先祖の名を一行に記した記録から、何か大切なことが浮かび上がるかもしれません。
家系図を作るすべての人にとって、過去帳は“最初に向き合いたい資料”のひとつです。