「氏(うじ)」と「姓(かばね)」の起源と変遷

■ 原始的な尊称と「姓(かばね)」の起源

もともと「彦」「姫(媛)」「根子」「泉師」「耳」「玉」「主」などは、古代の尊称(敬称)でした。これを「原始的姓」と呼びます。
当初は他者から呼ばれる称号でしたが、のちに氏族の長(氏上)自身も自ら名乗るようになりました。

■ 「賜姓」と氏族の階層化

大和朝廷が成立すると、この「姓(かばね)」は天皇から氏族の長に与えられる**爵位(身分称号)**のような意味を持つようになりました。
時代によって与えられた姓の種類は異なり、以下のように整理されます。

神武天皇以前の神々の子孫 … 中臣氏・大伴氏など → 「連(むらじ)」

神武~孝元天皇の頃成立 … 蘇我氏など → 「臣(おみ)」

開化~継体天皇の頃成立 … 酒人氏など → 「公(きみ)」

継体天皇以降成立 … 守山氏など → 「真人(まひと)」

職能集団として仕えた氏族 … 衣縫氏・服部氏 → 「造(みやつこ)」

帰化人系 … 漢氏・秦氏 → 「史(ふひと)」

地方豪族 … 日佐・直(あたい)、国造(くにのみやつこ)、稲置(いなぎ)、県主(あがたぬし)、村主(すぐり)など

■ 氏(うじ)と氏名(うじな)

「氏」とは、本来、大和朝廷に結集・服属した父系の血縁集団を指します。
構成としては、氏族の長である氏上(うじのかみ)と、その血縁者である氏人(うじびと)、さらに非血縁の従属民である**奴婢(ぬひ)や部曲(べのとも)**が含まれました。

氏の名称が「氏名(うじな)」であり、例として:

天皇氏

蘇我氏

物部氏

大伴氏
などが挙げられます。

■ 氏から名字・家族名への変遷

時代を経るごとに、氏の意味は変化していきました。

古代 … 父系血縁集団(氏族)の名称

平安期以降 … 源氏、平氏、藤原氏、橘氏などの男系氏族名

中世中期以降 … 北条、足利などの名字(苗字)

近世~現代 … 家族単位の姓(家族名)