歴史人口学とは ― 人口史研究を変えた新しい学問

歴史人口学は、戦後に登場した新しい学問分野で、人口史の研究に大きな変化をもたらしました。
フランスの人口学者ルイ・アンリが、キリスト教会に残された洗礼・結婚・埋葬の記録を用いて前近代社会の人口を推計したことが出発点です。
この研究はフランスやイギリスで確立し、世界中の歴史学者・人口学者に衝撃を与えました。

日本の歴史人口学における最大の資料が、宗門改帳です。

これは「島原の乱」後、キリスト教を禁止した幕府が、全国民が仏教徒であることを証明させるために作らせた文書です。
1638年に幕府直轄領で始まり、1671年からは全国で毎年作成が義務化されました。

宗門改帳には、家ごとに氏名・年齢・続柄が記録され、さらに持高(田畑の石高)、牛馬の数、結婚や養子縁組、出稼ぎなどの情報まで記載されることもありました。
まさに江戸時代の「国民台帳」といえる存在です。
次のような内容が記載されてます。

村の人口規模や構成(年齢別・男女別)
家族の形態や同居のあり方
出生率や死亡率の推移
結婚年齢や養子縁組の実態
一人ひとりのライフコース(誕生から死までの人生の変化)

つまり宗門改帳は、単なる宗教管理のための帳簿ではなく、近世日本の社会構造や人々の生き方を解き明かす鍵なのです。
歴史人口学は、記録のなかに眠っていた「人々の暮らしの実態」を科学的に読み解く新しい学問です
。日本では宗門改帳を活用することで、村ごとの人口変動や家族のあり方が鮮やかに浮かび上がります。

過去の人々の生活を数値と物語の両面から追うことは、単に歴史を知るだけでなく、現代の私たちが生き方を考えるヒントにもなるのではないでしょうか。