【よくあるご質問⑦】古い戸籍って、そんなに信用できないんですか?

家系図を作っていると、「本当に戸籍の記載って信じていいの?」と疑問を持つ方もいらっしゃいます。
特に戦前の古い戸籍、なかでも最初に編製された**「壬申戸籍(明治5年式)」**には、多くの誤記や漏れ、虚偽の届け出があったことが知られています。
今回は、「古い戸籍の記載がなぜ信用しきれないのか」について、歴史的な背景を交えて解説します。

🏛 明治政府自身が問題を把握していた「壬申戸籍」
日本で初めて全国規模で作成された戸籍が、明治5年(1872年)に編製された「壬申戸籍」です。
しかしこの戸籍には、

 ・届出漏れ
 ・故意の虚偽申告
 ・記載ミスや書き間違い

などが多く含まれていました。

その背景には、当時まだ戸籍制度が人々に十分浸透しておらず、

 ・戸籍を出さないことに対する罰則がなかったこと
 ・戸籍が徴兵や納税の資料として使われることへの警戒感

などが重なり、わざと届け出を怠った人も少なくなかったのです。

🗣 政府高官も苦言を呈していた
内務卿・大久保利通は、壬申戸籍について「等閑疎漏(=いい加減で漏れが多い)な内容」と評しています。
陸軍卿・大山巌は、明治14年に「戸籍の内容は信頼できず、徴兵漏れが多すぎる」として、戸籍は「ほとんど反故紙(紙くず)のようなもの」とまで言い切りました。

これほどの厳しい評価が当時の政府内から出ていたことが、壬申戸籍の不正確さを如実に物語っています。

🧾 明治19年式戸籍でも“誤記の追認”があった
壬申戸籍の不備を正すために明治19年(1886年)に新たな戸籍制度が導入されました。
しかし、すべてが修正されたわけではなく、前の誤記をそのまま書き写して“追認”してしまった例も多く存在します。
それにより、誤りが次の戸籍、そのまた次の戸籍へと連鎖的に引き継がれてしまったのです。

🧩 家に伝わる話や他の資料と違うことも
実際に家系調査を行っていると、
 
 ・戸籍と家族の言い伝えが合わない
 ・戸籍と過去帳、墓石の情報が食い違う
 ・古い文書と照らし合わせると年齢や続柄が違う

といったケースによく遭遇します。
その原因のひとつが、まさに明治初期の戸籍編製時に生じた遺漏(いろう)や誤記の可能性なのです。

🧠 柔軟な推理と検証の視点を持つことが大切
もちろん、戸籍の誤りを証明できる記録を見つけることは簡単ではありません。
実際には、「不自然に思えても戸籍に記載されている通りに家系図を組む」しかないことも多いです。
しかし、「戸籍にも限界がある」という知識があるだけで、その情報に柔軟な視点でアプローチできるようになります。

✨ まとめ:戸籍は“完璧な記録”ではなく、“参考資料のひとつ”
・明治時代の戸籍(特に壬申戸籍)には、政府も認めた多くの誤りや漏れがあった
・明治19年式戸籍でも、誤記のまま引き継がれた事例が多数ある
・家系図作成では、戸籍は「材料」であり、過信せず他の資料と照らして判断する姿勢が必要
・矛盾に直面しても、資料と推理で丁寧に読み解く姿勢を持つことが大切です