歴史を振り返ると、宗教と人口記録の関係は非常に興味深いものがあります。なかでも日本、イタリア、スウェーデンは、それぞれ異なる宗教的背景のもとで人々を記録し、後世に残しました。ここでは、その違いを見ていきましょう。
16世紀のイタリアでは、宗教改革の広がりに対抗するため、カトリック教会が厳しい姿勢を示しました。その一環として作られたのが「魂の記録」と呼ばれる資料です。
教会に通う人々を調査し、記録しました。
主導権は司祭にあり、信徒は聖書を自ら読むことを許されなかった
その結果、南欧では識字率の上昇が遅れました。1960年代のポルトガルにおいても、成人の識字率がまだ50~60%程度だったことはその名残と言えるでしょう。
一方、スウェーデンはプロテスタントの国でした。カトリックとは逆に、聖書を自分で読めることが信徒の義務とされました。
家ごとに聖書を持ち帰ることを推奨し読解力を確認するため、教会が「試験登録簿(エグザミネーション・レジスター)」を作成
生まれた子どもから大人まで、文字が読めるかどうかを記録
これにより、スウェーデンでは識字率が早くから高まり、教育水準の向上につながりました。
日本では16世紀、キリスト教が織田信長のもとで広がりを見せました。しかし豊臣秀吉、徳川幕府へと時代が移るにつれ、キリスト教は天下統一を脅かす存在として危険視されます。
その結果導入されたのが、宗門改帳です。
全ての日本人が仏教徒であることを寺院が証明
年齢、家族構成、生死などを毎年記録
キリシタンを排除するための徹底した監視制度
宗門改め帳は本来宗教統制の道具でしたが、今日では江戸時代の人口や家族の姿を知る貴重な資料となっています。
三者三様の宗教と記録文化
イタリア:信徒の魂を記録するが、聖書は司祭のものであり、識字率の普及は遅れた
スウェーデン:聖書を読むことを義務化し、教育・識字の拡大へ
日本:キリスト教を禁止し、全員が仏教徒であることを証明させるため宗門改め帳を整備
同じ「宗教と人口記録」であっても、目的も成果もまったく異なっていたのです。
宗教的な背景が、人々の識字率や記録文化に大きな影響を与えたことは、歴史の皮肉とも言えるでしょう。
それぞれの国で残された資料は、現在では歴史人口学や家系調査に活用され、私たちが自分のルーツを知るための貴重な手がかりとなっています。
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