家族復元 ― 歴史人口学を変えたルイ・アンリの発明

歴史人口学という学問を大きく前進させたのが、フランスの人口学者ルイ・アンリです。彼が確立した方法は「家族復元(Family Reconstitution)」と呼ばれています。

家族復元
ルイ・アンリは、教会簿などに残された「洗礼・結婚・埋葬」の記録をもとに、一人の人物を誕生から結婚、子どもの誕生、そして死まで追跡するという方法を考案しました。

例えば、こんな具合です。

1650年 ピエールが誕生
1680年 ピエールが結婚(相手は他教区から来た女性)
1681年 子どもマルクが誕生、幼くして死亡
1685年 娘ルイーズが誕生、成人し結婚

このように、夫婦と子どもたちのライフサイクルを一つひとつ丁寧に追いかけ、複数の家族のデータを積み重ねていくのです。

わかること

この方法を用いることで、当時の人々の生活が統計的に明らかになります。

平均結婚年齢
夫婦の子どもの数
幼児死亡率
平均寿命
出生から成人まで生き延びた割合

つまり、個々の記録を積み重ねることで、社会全体の人口動態を推計することが可能になったのです。

19世紀になるまで、多くの国では近代的な国勢調査は存在しませんでした。そのため、研究者たちは「昔の人口の動きは正確にはわからない」と考えていました。

しかしルイ・アンリの方法によって、フランスでは17世紀半ば以降、イギリスでは16世紀半ば以降の人口動態を復元することができるようになりました。これはまさに学問的な革命でした。

まとめ

「家族復元」は、単なる統計技術ではなく、過去の人々の人生を一人ひとりたどる作業から始まります。その積み重ねが、数百年前の人口の姿を明らかにし、歴史人口学を確立させました。

私たちが自分の家系図を作るときも、同じように祖先の「生まれ・結婚・死」をたどっていきます。ルイ・アンリの方法は、まさに現代の家系調査の基礎ともつながっています。