教会簿と宗門人別改帳 ― ヨーロッパと日本の記録文化の違い

歴史人口学の源泉となったヨーロッパの教会薄冊は、洗礼・結婚・埋葬という人生の節目を克明に記録したものでした。一方、日本には宗門人別改帳という独自の制度があり、こちらもまた人々の生活を残す基礎的な台帳でした。両者は似ている点も多いですが、背景や目的には大きな違いがあります。

1. 記録の目的の違い

ヨーロッパの教会簿
信仰を前提とした記録であり、住民の誕生・結婚・死を「神の前で承認する」意味がありました。宗教儀礼としての記録が、結果的に人口研究の素材になったのです。

日本の宗門人別改帳
江戸幕府がキリシタン禁止を徹底するために導入した制度です。「どの寺の檀家か」を登録させ、同時に人口・労働力を把握する租税台帳の役割も兼ねていました。宗教統制と課税が主な目的でした。

2. 記録される内容

教会簿
洗礼:子どもの名前、両親の名前、洗礼日
結婚:夫婦の名前、出身地、年齢、署名(代筆署名も)
埋葬:亡くなった日、名前、年齢(記載される場合も)

宗門人別改帳
各村ごとに全住民の氏名・年齢・家族関係
檀那寺(所属する寺)の記載
キリシタンでないことの確認
出生・死亡も基本的に反映

ヨーロッパでは「人生の通過儀礼」が軸、日本では「宗教統制と課税」が軸であったことがわかります。

3. 学問への影響
教会簿はルイ・アンリによって歴史人口学の資料として活用され、出生率・死亡率・結婚年齢などの分析に活かされました。

宗門人別改帳も近年では歴史人口学の研究に活用され、江戸時代の平均寿命や家族構造、人口変動の研究に大きな役割を果たしています。

まとめ
ヨーロッパと日本、記録の背景は異なっても、「人の生まれ・結婚・死を残す」という点では共通しています。宗教・政治・税制のために作られた記録が、数百年を経て私たちの「先祖や地域社会を知る貴重な資料」になっているのです。